生活文化デザイン学科教授 飯淵 康一

re120924a5生活文化デザイン学科の飯淵康一です。

 私が宮城学院女子大学に勤務するようになったのは昨年からですが、それまでは東北大学で建築の歴史について研究していました。
 専門は日本住宅の歴史で、特に「平安時代の貴族住宅」について詳しく調べていました。私の書いた本が大学の図書館にも備えてありますので、興味のある人は手に取ってみて下さい。(『平安時代貴族住宅の研究』、『続平安時代貴族住宅の研究』いずれも中央公論美術出版)

 

 建築の歴史というと難しいと思われるかもしれませんが、内容は幅広く、日本のみならず西洋まで、また時代についても古代から現代までを扱っており、大変やりがいのある奥行深い学問です。研究の方法も、古い記録などをもとにした文献研究や、実際の建物を測量調査しながら進めるフィールドワーク研究など色々あります。私も今まで、古い茅葺き農家や町屋、町並み調査などに参加し、また古いお寺や神社もたくさん調べてきました。近頃の仕事としては、惜しまれつつも失われてしまいましたが、仙台市八幡町にあった造り酒屋「天賞酒造」の店や酒造りのための蔵の調査があります。
 現在私が興味を持って研究しているのは、巨匠と弟子との関係です。弟子は巨匠に憧れ入門するのですが、やがて巨匠の影響から抜け出し自分の世界を生み出そうと努力します。建築の分野でもこのような関係が見られるのではないかと考え、帝国ホテルの設計者として知られる世界的建築家フランク・ロイド・ライトと日本人第一の弟子遠藤新の作品を取り上げ調べています。

 宮城学院での講義は、「住宅文化史」「建築史」「住生活文化論」など建築の歴史に関係するものが多くなりますが、私の講義は一方的に知識を与えるのではなく、学生と問題点を共有しながら進めていく対話型を心掛けています。大学と高等学校との学ぶ上での最も大きな違いは、単に知識を得るのではなく「批判的に物事を見る、自ら考える」ことを学ぶという点にあります。皆さんは意外に思われるかもしれませんが、教科書に載せてあることすべてが正しいとは限りません。このように講義を進めていきますが、上に述べたような考えから講義と直接には関係のないDVDなどを教材とすることもあります。今年は、NHKテレビで大きく取り上げられた、ハーバード大学サンデル教授の哲学講義を収録した『白熱教室』を用いました。

 学生たちは卒業研究のための基礎的知識を学ぶために3年生の段階から各研究室に配属され、4年生になると本格的に論文作成に取り組むことになります。私の研究室の場合、学生たちは興味のあるテーマを自分で設定しますが、必ずしも建築の歴史に限ってはいません。例えば現在の4年生の研究内容を紹介しますと、「キリスト教会型結婚式場の現代的意味」、「近代日本における理想郷-宮澤賢治のイーハトーブと白樺派の新しき村」、「谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』と建築家による日本建築観」、「漫画『名探偵コナン』に見る事件と場所性」、「TV番組『大改造!劇的ビフォー・アフター』に見る改造の方法」、「北宋時代の絵巻『清明上河図』に描かれる建築」など様々です。去年の4年生は2名でしたが、「外国人建築家の日本観について」、「婦人雑誌に見る住宅およびインテリア記事の変遷について」をテーマとし、それぞれ素晴らしい論文を仕上げてくれました。今年の3年生はまだまだこれからですが、やはりそれぞれが興味深いテーマを考えているようです。

re120924b

4年生のゼミ風景(1)

 

re120924c

4年生のゼミ風景(2)

3年生のゼミでは、研究内容とは別にみんなで同じ本を読んで話し合う事を計画しました。教材は細川護熙の『ことばを旅する』です。この本は歴史上の人物の名言名句を紹介したもので、聖徳太子を始めとして道元、兼好法師、西行法師、細川ガラシャから新渡戸稲造に至るまでの人物が取り上げられています。この試みも、自分を深く見つめ直す切掛けになればと考えてのことです。
しかしながら堅苦しい研究室では全くありません。むしろその逆で、掲載の写真は4年生、3年生のゼミナール風景ですが、お茶を飲みお菓子を食べながらリラックスし、楽しみながらのゼミである事がわかると思います。冷蔵庫にはいつも色々な種類のアイスクリームが入れてあり、電子レンジも備えてあります。ほかの研究室の学生もよく遊びに来ているようで、私が講義から帰ってきたとき知らない学生が楽しそうに過ごしていたこともありました。「開かれた研究室」が私のモットーです。

re120924d

3年生のゼミ風景

今日、私たちの国では将来像が明確には見えていません。経済についても先行き不透明で不安感に満ち、極めて混迷した時代となっています。このような中で私たちはその場しのぎの利己的な、ともすれば忌むべき拝金主義にさえ陥りかねません。こうした時代だからこそ自分の生き方を真剣に考え、進むべき道を模索していかねばなりません。大学での4年間は大変貴重であり、感受性豊かな君たちにとってかけがえのない時間となる筈です。

 宮城学院女子大学は歴史ある素晴らしい大学です。私たちも「君たちが今まで以上に誇りを持って語れる大学」となるよう努力していきたいと考えています。是非、一緒に新しい歴史を創っていこうではありませんか。