日本文学科准教授 澤邉 裕子

みなさん、こんにちは。日本文学科の澤邉裕子です。日本語教育学が専門で、宮城学院では日本語教員養成課程の科目を担当しています(写真1)。

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みなさんの中には日本語教育あるいは日本語教師(「日本語教員」よりこちらの言い方が一般的)という言葉を初めて聞いた方もいるかもしれませんね。外国人など日本語を母語としない人に日本語を教えることを日本語教育、日本語教育に携わる教師のことを日本語教師と言います。2009年、日本語教師である海野凪子さんと漫画家蛇蔵さんの『日本人の知らない日本語』というコミックエッセイ本がベストセラーとなり、大きな話題となりました。この本の中には「冷める」と「冷える」の違いは?など普段あまり意識もしてこなかった日本語の興味深い点がたくさん出てきます。日本語教師の面白さの一つは、日々こうした質問を学生から受けながら一緒に考え、日本語の新たな一面を発見していけることにあるのでしょう。先日日本語教育実習に行った4年生は、学生から「『方向』と『方角』の違いは何ですか」という質問を受けて考え込んだ、と言っていました。あなたなら、どう答えるでしょうか。

さて、上のようなことばかり話していると、日本語教師は日本語の勉強ばかりしているように思われてしまうかもしれませんね。いえいえ、それだけではありません。教育とは人間相手のもの。日本語教師の場合、異文化を背景に持つ学生を相手としますから、異なる文化の中に飛び込み、コミュニケーションをとっていく勇気も必要です。

ここで少し、日本語教師としての私に大きな影響を与えてくれた2つの場所について紹介しましょう。
1つはこちら、北方領土の択捉島(写真2)です。

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私は国内の日本語学校に2年半勤めた後、夏の間だけ北方領土の択捉島で日本語を教えるという体験をしました。当時、現地に住むロシア住民と日本人との交流活動の一環として毎年夏に日本語教室が開かれていて、その講師に応募したのです。択捉島に日本人は一人も住んでいません。期間限定の日本人講師である私に現地の人々は大変親切に接してくれて、小さな子どもからご年配の方まで熱心に授業に参加してくれました。

授業外でも自宅に招いて心のこもったロシア家庭料理を振舞ってくださったり、ハイキングに連れていってくださったり…と、思い起こせば楽しい思い出ばかり(写真3、4)。

sawabe04しかし、それはこの教室の目的が短期間の「交流」にあったからだとも言えます。この滞在を通じて、私は短期間の交流を超えてもっと深いところまで異文化を理解してみたい、もっと長い期間異文化環境に身を置いて自分自身も学んでみたいと考えるようになりました。この択捉島での経験がなければ、翌年本格的に海外に出て仕事をしようとは思わなかったかもしれません。

 

sawabe052002年、私は国際交流基金派遣の日本語教師として韓国に渡りました。この年から約5年間韓国で日本語教育に携わることになります。韓国と言えば海外で最も日本語学習者数が多い国として知られています。その中で最も数が多いのは第二外国語として日本語を学ぶ高校生ですが、学校のシステムの関係上、一般の高校で日本人教師が教えるというチャンスは滅多にありません。私は幸運にもこのチャンスに恵まれ、高校の日本語教育現場に立つことができました(写真5)。

 

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韓国の高校生と言えば「大学受験が大変そう・・」というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、本当に熱心に勉強します。日本語と韓国語は文法や語彙がとても似ていて学びやすいということもありますが、日本の大衆文化に関心を持つ生徒も多く(私の顔を見て何故か「ARASHI!」と声をかける子も大勢いました・・)、興味を持って日本語を学んでいる生徒が多いように思いました(写真6)。

 

この高校での日本語教師経験から韓国人教師と日本人教師とのティーム・ティーチング授業事例集(/www.jpf.or.kr/language/tt/index.htm)や日本語授業のヒント 「先生、これが知りたい!」(/www.jpf.or.kr/japanese_ori/topics/topics_list.html)を執筆していますので、興味がありましたら見てみてください。

他にも韓国では大学生や社会人の方々に日本語を教えてきましたが、本当に幅広い層で日本語が学ばれていることに驚くばかりでした。社会人対象のクラスでは会社が始まる前の朝7時から授業をしていることも多いのです!学習動機はさまざまでしょうが、隣国日本の言語や文化を知ろうとする意欲的な姿勢には目を見張るものがあります。私たち日本人も、もっと隣国の言語や文化を積極的に学んでいくべきだと考えさせられました。これがきっかけとなり、現在私は週に1度、宮城学院高等学校との高大連携プログラムの授業で、高校生に入門韓国語を教えています。

海外に身を置き、自分自身も異文化体験をしながら日本語教師をしたい。日本語を教える仕事を通じて何か見えてくるかもしれない、という思いを抱いてエイッ!と韓国へ渡った私ですが、そこで得たものは一生の宝物になるようなことばかりでした。日本文学科の日本語教員養成課程では、2年に1度、韓国への研修旅行を企画しています。宝物の中身は研修旅行に参加してみればきっとわかります(写真7)。皆さんも日本文学科で学んでみませんか。日本語教員養成課程の詳しい紹介はこちらのホームページ(/mgu-nihongo.flips.jp)をご覧ください。

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