人間文化学科 教授 今林直樹

 みなさん、こんにちは。人間文化学科の今林直樹です。
 突然ですが、先日、京都に出張に行った時のこと。地下鉄東西線の「京都市役所前」駅のロビーで「満月堂」という名のグループがミニライブをやっていました。満月堂は、1970年代のフォークソングを中心に歌う、いわゆる「おやじバンド」です。「神田川」「踊り子」「風」「心の旅」など、次から次へと繰り出される70年代フォークに、つい足が止まり、彼らの歌に耳を傾け、気がつけば一緒になって歌っていました。
 かくいう私は1962年生まれの現在54歳。フォークソング全盛の70年代はまさに私の青春ど真ん中です。ほんの1時間ほどの短い間でしたが、私は自分の中学生時代にタイムスリップしていました。私だけではありません。最後の「心の旅」が始まる頃には、満月堂を囲んだ人の輪はますます大きくなっていき、ついにはステージのマイクを握って歌う観客も現れたほどでした。間違いなくその人たちも自身の青春時代にタイムスリップしていたのです。

人はいつか必ず自分の人生を振り返る時がきます。当然ですが、それは過去を振り返ることです。その過去とはどのような過去でしょうか。思い出したくない過去ならば、わざわざ振り返ることもないでしょう。振り返りたくなるほどの過去とは、自分自身が輝いていた、とてもすばらしい過去なのです。しかし、当時、実際にはそのすべてが輝いていたわけではありません。それは思い出したくないものが取り除かれた過去、すなわちいいものだけが残った過去なのです。私と同世代の人々が、70年代フォークソングを聞き、歌いながら、そこに懐かしさを感じるとき、その人の頭の中には自身の青春時代のすばらしい思い出だけがぐるぐるとまわっているのです。

このような良き過去へと向かう心理状態のことをフランス語でノスタルジーといいます。日本語では「懐かしさ」とか「郷愁」と訳されます。今、私が関心を持っているのがこのノスタルジーです。そもそも、人はどうしてある時代に対して「懐かしい」という感情を抱くのか。「懐かしさ」はどのように立ち現れ、どのように表現されるのか。そして、それはどのような機能を果たすのか。今、心理学や文学、歴史学そして地理学など、様々な学問分野でこうしたノスタルジー研究が盛んになっています。
このような状況を受けて、宮城学院女子大学では附属の人文社会科学研究所のなかに「ノスタルジー」をテーマとする共同研究を起ち上げました。大学というところは便利なところで、一つのテーマが設定されると、それを様々な学問分野から専門的に取り上げることのできる教員がすぐに見つかります。今回も8名の教員が所属する学部学科の枠を超えて参加しました。これまでに、4回の研究会を開催し、ノスタルジーの概念整理を始め、文学、歴史学、地理学を専門とする教員からの研究報告があり、豊かな知的成果を積み重ねてきています。これこそ大学の醍醐味です。

「学んで問う」学問は「楽しく問う」楽問でもあります。みなさんにもぜひこうした知的刺激を、そして学問することの楽しさを味わってほしいなと思っています。