八木祐子先生定年退職記念シンポジウムが開催されました

 2026年2月21日(土)、午前9時半~12時半、K302教室において、宮城学院女子大学学芸学部人間文化学科主催、本学キリスト教文化研究所および本学ジェンダー教育研究センター共催で、八木祐子先生定年退職記念シンポジウム『アジアの社会変容と女性』が開催されました。本シンポジウムは、長年にわたり、インドをフィールドとして文化人類学を牽引してこられた八木先生の学問的歩みを振り返り、その研究の軌跡と射程を再確認することを目的として企画されたものです。最初に、人間文化学科長の杉井信先生によるご挨拶があり、2部に分かれて、報告がおこなわれました。
 第1部では、八木先生による基調報告「北インド農村の社会変容と女性―40年の時をこえて」がおこなわれました。1980年代以降、継続してきた北インド農村調査をもとに、高齢女性(マーイー)の家族を事例として、住まいの構造変化と家族・ジェンダー関係の再編が示されました。経済自由化以降の消費社会化、出稼ぎの増加、教育機会の拡大は、家屋の新築や間取りの変化として具体化し、従来のアンガン(中庭)を中心とした女性空間からキッチンを備えた家族単位の住まいへと移行していることが指摘されました。そこには、嫁世代の教育水準の上昇や経済力の向上に伴う世帯内の力関係の変化が反映されていました。
 第2部では、八木先生の指導のもとで学び、本学を卒業した研究者による報告が続きました。まず、木曽恵子氏の報告「タイのジェンダー―交差する差異と不平等」では、タイにおける結婚平等法施行後の状況を手がかりに、LGBTフレンドリーな経済政策とローカルな家父長制的ジェンダー秩序の持続という相反する力学を論じ、制度的平等と社会的受容のあいだの緊張を示しました。伊藤まり子氏の報告「ベトナムの女性たち―方法論としてのライフストーリー」では、カオダイ教信者女性のライフストーリーを通じて、儒教的家父長制、社会主義化、市場経済化のなかで再編される女性の経験を検討し、語りを通して社会変容を読み解く方法論的意義を提示しました。工藤さくら氏の報告「ネパールの女性と儀礼―社会的経験は変わったか?」では、ネワール社会における初潮儀礼や出家儀礼を取り上げ、儀礼の変化とジェンダー規範の持続という両義性を論じました。菅野美佐子氏の報告「インドの村の女性たち―より良い暮らしを求めて」では、インド農村における貧困女性支援の現場から、新自由主義化の進展のもとで「だれひとり取り残さない」という理念が直面する困難を示し、制度と個人責任の間の緊張を明らかにしました。それぞれの報告のさいには、八木先生との出会いなど、これまでの関わりも語られました。
 質疑応答では、フィールドワークの経験が研究者自身の生き方や日本社会の見方をいかに変えるかが問われ、規範を相対化する視点や複眼的思考の重要性が共有されました。また教育者として何を大切にしてきたのかという問いに対し、八木先生は、「学生とともに自由に考え、自由に語る場を作ることを重んじてきた」と述べられました。研究の楽しさを伝えることこそが自身の役割であったとの言葉は、第1期生から、現在の3年生である第34期生まで世代をこえて集まった卒業生に深い共感を呼びました。
 本シンポジウムは、八木先生の研究と教育が織りなしてきた知的系譜を確認するとともに、アジアの社会変容と女性をめぐる問いを次世代へと継承する場となりました。

             木曽恵子(人間文化学科「ジェンダー論」担当講師)